遂にこの日がやってきた。
見慣れた街並みもいつもとはまるで違って、輝いて見える。
身長167センチと、どちらかと言えば小柄な僕も心なしか自分が大きくなったように感じる。
・・・と言うか実際に、いつも歩くよりも視点はかなり高かった。
皆さんの中に実際のアルパカにまたがった方がどれだけいるか分からないが、
大人のアルパカは、実物で見ると想像よりも遥かに大きい。
腰の部分にまたがると地面の高さまで優に2メートルはある。
ましてや僕のアルカパには長旅に耐えられるよう、クッション性の強い分厚い鞍を装着してあるので、
通常よりも跨った時の地面との距離は更に遠くなっている。
僕は今まさにこれまで誰も成し遂げたことのない挑戦を始めようとしている。
そう、アルパカに乗って世界1周をするのだ。
世界を1周する方法は当たり前だが大きく分けて2つある。
縦に回るか横に回るかだ。縦に回るのであれば、僕の住んでいる長崎県から日本列島を北へ北へ登って、
まずはロシアを目指せばいいのかもしれないが、日本もロシアも割としっかりとした真面目な国なので、
少し移動するごとに警官や消防官に止められていてはせっかくの旅も興ざめである。
それよりも一気に海を渡って、中国やインドを通る方が、すんなり通してくれそうな気がしたので
僕は横周りに世界1周を目指すことをすぐに決めた。
中国やインドのように大雑把な国であれば、多少道中止められたとしても、
「アイヤーパンダじゃなくて、アルパカとは少し珍しいねー。肉まん食うアルか?」だったり、
「ナマステよー。象さんじゃなくてアルパカとは珍しい。どんな辛さのカレーにも驚かない私たちインド人もビックリ!」
と言われるくらいがきっと関の山であろう。
何より僕はボルシチよりカレー派なのである。
と言うわけでまずは船で中国入りし、そのままシルクロードを通ってインドを目指すと言うのが最初の計画である。
本来であれば、このまま悠々とアルパカにまたがって国道を大波止の船着き場へと向かいたいところではあるが、
いくら動きの遅い長崎県警でも、僕が大波止に停泊している中国船にアルカパを乗せるまで、待っていてくれるとはとても思えない。
そもそもワシントン条約という条約が世界にはあって、生き物を国外に連れ出すと言うのは結構大変なのである。
第一、正直に目的を明かして僕とアルパカの出国を許してくれるとは到底思えない。
取りあえず規制の緩そうな中国とインドの田舎道を無許可で進み、最終的にアルパカの背中にまたがって世界1周をしたいのです。
・・・なんて話を真面目な顔でしたら、危ない薬を飲んでいると思われるに違いないし、
何しろ僕は昔からお巡りさんには好かれていて、人の20倍は職質を受ける。普通に自転車に乗って走っていても、「それ君の自転車?」と声をかけられる人間が、アルパカに乗って国道を進んでいて「それ本当に君のアルパカ?」と声をかけられないわけがないのである。
そこで、僕はとても良い作戦を思いついたのである。
一度跨ったアルカパから颯爽と飛び降りて、アルパカの目を見ながら僕はあらかじめ用意していた道具を袋から取り出した。。
僕の両手に光るバリカンと鋏を見て、いつものんきな顔をしているアルパカにも多少の緊張が走ったような気がした。
僕は彼の目を見ながらボソッとつぶやいた・・。
「ごめんよ・・・。」(続く)
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